(writer:きのこ)


人間ていうのは薄情な生き物で、きっかけがないと他人の親切なんて思い出さない。
いつか自分に優しくしてくれた人の存在さえ、普段は頭の片隅にもなかったりする。


昨日、以前勤めていた会社でお世話になった先輩のお通夜に参列した。
退社してから約4年。その先輩のことを思い出すことは、ほとんどといっていいほどなかった。
同期の集まりに参加しても話題に上らなかったし、自ら尋ねることもしなかった。


それなのに。
その知らせを受けた途端、どんどんその先輩との思い出がよみがえった。
自分でも驚くほど細かなことまで。
入社して半年、いきなり出向を命じられ先輩10人ほどのチームに放り込まれた私のトレーナーをしてくれたっけ。
心細い私に、隣の席からたくさん話しかけてくれたっけ。
チームのみんなでスキーに行ったなぁ。たまに休憩しに食堂に行ったとき、コーヒーをおごってくれたなぁ。


・・・お寺について、同チームの先輩が出迎えてくれたとき、どーっと涙が出た。
なんだか信じられずにいた先輩の死が、一気に現実のものとなった。
そして、お世話になったにもかかわらずさっさと会社をやめ、疎縁になっていた自分を恥じた。
こんな時になってようやく、2年間頑張れたのが先輩のお蔭だったと気づくなんて遅すぎる。
本当に遅すぎる。
手を合わせて、先輩に何度も何度もお礼を言った。天国の先輩に届きますように。

伊地知さんのご冥福をお祈りいたします。